ヌックの作り方|広さ・天井高・こもり感を出す3つの条件
- Category:設計・間取り・収納
はじめに
「家族と同じ空間にいながら、少しだけ自分の時間も持てたらいいのに」。その感覚を間取りで解決する方法のひとつが、ヌックです。
リビングの一角に設ける小さな居場所は、読書やひと息つく時間、子どもの遊び場として、暮らしにさりげない余白をつくってくれます。
ただ、なんとなく取り入れると「使わないスペース」になってしまうことも少なくありません。
使われるヌックになるかどうかは、広さではなく天井高で決まります。目安は210cm程度。一般的な240cmより低くすることで、こもり感が生まれます。
この記事では、群馬・高崎の設計事務所「いちいホーム」(一級建築士事務所)が、ヌックを「ちゃんと使われる空間」にするための3つの条件を、用途別の寸法とあわせて整理します。
この記事でわかること ・用途別の広さ・奥行きの目安(寸法表) |
先に結論――3つの数字
| 条件 | 目安 | 外すとどうなるか |
| 天井高 | 210cm程度(一般的な天井は240cm) | こもり感が出ず、ただの隅になる |
| 奥行き | 座る45〜50cm/あぐら60cm以上 | 浅いと座りにくく、深いと物置になる |
| こもり感 | 段差・素材・開口で領域を切る | リビングと一体化して居場所にならない |
この3つが揃うと、小さな空間が「居場所」になります。逆に、どれかひとつでも外すと使われなくなります。
条件① 広さと奥行き――用途で決まります
ヌックは広ければ良いわけではありません。広すぎると、ただの小部屋になってしまいます。大切なのは「身体にフィットするサイズ感」です。
そして、必要な寸法は「何をする場所か」で変わります。
| 使い方 | 広さの目安 | 奥行きの目安 |
| 座って読書・ひと息つく | 0.5〜1帖 | ベンチ奥行き 45〜50cm |
| あぐらをかいてくつろぐ | 1〜1.5帖 | ベンチ奥行き 60cm以上 |
| 横になれるようにする | 1.5〜2帖 | ベンチ奥行き 70cm以上 |
| カウンターで作業・在宅ワーク | 1.5〜2帖 | カウンター奥行き 35〜45cm+通路60〜80cm |
| 小上がりで親子・子どもの遊び場 | 2〜3帖 | 小上がりの段差 15〜40cm |
ベンチの奥行きとカウンターの奥行きは、別のものです。座る面は深く、作業する面は浅く。ここを取り違えると、座りにくい・使いにくいヌックになります。
いちばん大切なのは、「何をする場所か」を先に決めることです。
用途が曖昧なままだと、寸法の根拠がなくなります。逆に用途さえ決まれば、上の表から必要な寸法が自然に決まります。
条件② 天井高――ここがいちばん効きます
居心地を決める最大の要素が天井高です。一般的な天井は約240cm。ヌックではあえて低くすることで、落ち着きが生まれます。
目安は210cm程度。座ったときに、手を伸ばせば届く高さです。
低くする方法はいくつかあります。
✓ 2階の床を利用して、その部分だけ天井を下げる
✓ 階段下のスペースを活用する
✓ 垂れ壁やアーチで囲う
✓ スキップフロアや小上がりにして、床を上げる
いずれの方法でも、心理的に「守られている感覚」が生まれます。広さではなく、包まれる感覚をどうつくるか。ここがヌック設計の中心です。


| ▶ 施工事例「余白のある暮らし」(群馬県高崎市) ――花火の見える2階ホールに、読書やリモートワークができる造作デスクを設けました |
条件③ こもり感――完全に閉じないのがコツ
ヌックの魅力は、完全に閉じない「半分だけこもれる状態」にあります。個室にしてしまうと家族の気配が届かなくなり、かえって使われなくなります。
そのために必要なのが、視覚的な切り替えです。
・床材や壁紙を変える:仕上げが変わるだけで、別の場所として感じられます
・天井だけ木を張る:見上げたときの印象が切り替わります
・段差をつける:15〜40cmの小上がりにすると、領域がはっきりします
・入口を小さくする:垂れ壁やアーチ型の開口で、少しだけ狭めます
・照明を落ち着いた色にする:リビングと分けることで空気が変わります
段差を小上がりにする場合、下を引き出し収納にできます。子どもの遊び場を兼ねるなら「おもちゃはここだけ」というルールをつくりやすくなり、散らかりがリビング全体に広がるのを防げます。

| ▶ 施工事例「遊と光の家」(群馬県高崎市) ――スキップフロアの畳コーナーなど、遊び心と収納を両立した住まいです |
使われなくなるヌックの、共通点
後悔の原因は、ほとんど同じところにあります。
目的が決まっていない状態でつくってしまうことです。
用途が曖昧なままつくると、物置になる・洗濯物の一時置き場になる・誰も使わない、という結果になりやすくなります。
もうひとつ見落とされやすいのが、温熱環境です。特に窓際に設ける場合、断熱性能が低いと夏は暑く冬は寒い「使えない場所」になってしまいます。窓のそばに長く座る場所をつくるからこそ、サッシの性能と断熱の効きが直接、居心地に返ってきます。
いちいホームではUA値0.46・C値0.5以下を基準にしていますので、窓際のヌックでも季節を問わず過ごせます。
どこにつくるのが良い?
おすすめは「生活の動線上」です。
| つくる場所 | 良い理由 | 注意点 |
| リビングの隣 | 家族の気配を感じながら使える、最もバランスの良い配置 | リビングとの切り替えを意識する |
| 階段横・ホール | 通り道に居場所をつくることで、自然と使われる | 通行の邪魔にならない奥行きに |
| 窓際 | 光が入りやすく、リラックススペースとして最適 | 断熱性能の確保が前提 |
「わざわざ行く場所」ではなく「つい使ってしまう場所」にすることがポイントです。
照明とコンセントも、同時に決めます
ヌックは天井を下げるぶん、光が届きにくくなります。手元灯や電源がないと使いづらくなり、結局使われなくなってしまいます。
寸法が決まったら、次は光と電源です。明るさの目安やコンセントの高さは、別の記事にまとめています。
スケール感は、体感するのがいちばん確実です
天井高240cmと210cmの違いは、数字にすると30cmですが、実際に座ってみると印象がまったく違います。座ったときの視線の高さ、光の入り方、包まれる感覚。これらは図面では分かりません。
見学の際は、ぜひ実際に座ってみてください。「この高さなら落ち着く」という感覚が掴めると、ご自身のプランに落とし込みやすくなります。
まとめ
ヌックは、ただ小さなスペースをつくるだけでは成立しません。重要なのはこの3つです。
①天井高:210cm程度まで、あえて下げる
②広さと奥行き:用途に合わせて決める(座る45〜50cm、作業35〜45cm)
③こもり感:段差・素材・開口で領域を切る
そして何より大切なのは、「そこでどんな時間を過ごすか」を先に考えることです。ここが定まれば、寸法は自然に決まっていきます。



